TOP > SPECIAL > Hiro Kurata Special Long Interview「from NY」

SPECIAL

04/06/2010 UPDATED

special_h2_hiro1


Hiro Kurata
80年大阪生まれ。ブルックリンを拠点に活動している画家/イラストレーター。主に野球、獣、人や自然などのモチーフを画面上で混合し、一つの調和のとれた幻想的な瞬間や世界観を表現しようとしている。
過去にパリ、東京、ベルリン、ニューヨークなどの都市で展覧会を開催。
07年 パリ、エールフランスのオルリー空港内ギャラリーにて作品を展示。
2010年NYチェルシーのJoshua Liner Galleryにて二人展を開催。

■アーティストページはこちら


NYダウンタウン、世界的に見てもアートの中心地と呼べるチェルシー地区にあるJoshua Liner Gallery。このギャラリーはここ数年のストリートアート、アーバンアート、ファインアートといったジャンルのアートシーンで大きく注目されるギャラリーの一つに数えられている。
そしてこれまでにJosh KeyesEvan HecoxAiko NakagawaTomokazu Matsuyamaと様々な注目アーティストのショーが開かれたこのギャラリーで、Hiro Kurataは今年(2010年)Tat Itoとの二人展を開催した。
このショーはきっと彼の活動にとって大きなポイントとなるに違いない。
そう思った私たちは、遠くNYブルックリンで活動する彼に話を聞いてみた。


Hiro Kurata Special Long Interview「from NY」
 〜チェルシーという場所での経験から〜

Interviewer:yuma okubo


P1000583


RED one PRESS(以下R):
まずJoshua Liner Galleryでショーをやることになったきっかけを聞かせて下さい。

Hiro Kurata(以下H):
僕は作家活動をする傍らで、チェルシー地区にある絵の修復スタジオで週4日ほど働いていました。働き始めて3年近くになるんだけど、去年(09年)の夏前後から不景気の末、NYの多くのギャラリーが潰れてしまいました。その影響で僕の仕事も半分に減ってしまったんです。仕事も無くなりゃ、絵も思ったように売れないっていうような状況に単純にヘコんでたんです。それでやみくもにどこに展示するかも解らない絵をちょこちょこ描いてはネットで新しい仕事探しみたいな毎日で。単純に不安で仕方がなくって。
で、色々これからの事を考えた結果、いつ安定な収入を得られるか解らない不安定な作家生活なんかより、経済的に今より安定した職をまず探してから色々広げていくやり方の方が自分には良いんじゃないかって。そんな事を考え始めてました。
修復スタジオのボスなんかも昔はペインターを目指してたみたいなんだけど、周りの人は大抵言う訳ですよ。「ペインターなんかお金にはならない」と。
時間はたくさんあったからそういうことを色々素直に考えてみたんですけど。
結局僕がたどり着いた答えはペインター以外の方向も何でもアリかなと…

で、その瞬間一気に視野が広がって。
たぶんその時は絵を描くことに対して変なプレッシャーみたいなものを感じてて、それに縛られなくなった途端に楽になった部分があったんですよね。
要するに絵画を今からは『趣味』にとどめようと。
そう頭で割り切ったらすごくスッキリしちゃって変な希望が湧いて来てたんです。
それでその次の日かなんかに、ちょうど修復の仕事のお昼休みにちょっとギャラリー巡りでもしようかなって回ってたんです。
その時にJoshuaLinerGalleryで、僕と同年代の日本人のペインターの作品を展示してることを知ってたからそれを観に行ったんですよ。
で行った時に(オーナーの)Joshに呼び止められたんです。
彼とは先輩を通じて一度紹介はしてもらっていたものの、きちんとした面識はなかったんです。でも彼は僕の顔と作品を憶えてくれていたみたいで、「最近の作品いいんじゃない?!」って感じで話してくれて、「ちょうど次の2月に空きがあるから君とTatでショーをやらないか?」って誘ってくれたんですよ。
Tat君って言うのはその日僕が観に行ってた日本人の作家さんで、何だか不思議な気持ちになってすぐに「OK!」って答えたんです。
とても嬉しかったですね。諦めかけた瞬間に道が開けるって事もあるんだなと実感しました。

4310378325_b4cd5c661a_o-sp

R:それで実際にやってみてどうでしたか?

H:オープニングの日は最高でした。寒い中大勢の仲間やお客さんが来てくれて本当に嬉しかったですね。
JoshuaLinerGalleryは僕がNYで展示して来たギャラリーの中でスペース的にもキャリア的にも一番規模の大きなギャラリーだったので真剣に取り組んだし、何より身近な人たちに来てもらえたのが嬉しかったです。大学時代の先生たちや、職場のボスたち、作家仲間や飲み仲間に大勢の知らない人たち。みんなが同じスペースに居るだけで特別な気持ちになりました。
で、そのオープニングから一ケ月はほとんど筆を握れていませんね。休んでる訳じゃないけど、どちらかというとビビってるって感じですかね。

021310_joshua_liner-185

R:ビビってるというというのは?

H:今まで僕はただ単に気持ちに任せて描いてきた様に思います。今日はこんな気分だからこんな絵を描こうとか、自分が良いと思うものを描きたい時に描こうっていう風に。
でも今回のショーを通じて、ある種そういう自己満足だけではいけないんだなってことを感じたんです。人に見せるってことをもっともっと考えてやらないとって。今でもまだ消化しきれて無いからうまく言葉に出来るか解らないけどさっきも少し触れた、「趣味人」と「プロ」の境目に居る気がして、その状況に戸惑っているというか。

それで今回展示して確実に思った事が一つ二つあります。
一つは作品を売る事について。要するに作品を提示した額に換金できるかどうか。汚い話だと思ってか考えないようにする事が多かったけど、そこがやっぱり作家の善し悪しを計る一つの目安にもなると感じています。
良い作品は山ほどあります。「良いなこれ!」って思うのはタダじゃないですか?でもそれを金を出して独占したくなるって事は並大抵の「良いなこれ!」じゃなくて、その人にとってとんでもなく良い作品って事ですよね。もちろん値段やその他の状況にもよりますけどね。とりあえず今は売れることは一つの採点結果になるだろうと思っています。
その次に今回売れた作品と売れなかった作品を少し対比したら、そこには確実に大きな違いがありました。具体的には説明できませんが、人はどの様な作品により惹かれやすいのかなって。その結果を参考にしつつヒネリを入れていけたらなと。
鑑賞者に媚びるわけではなく、観る人を惹き付ける作品づくりをしたい!って思った時に、やっぱり好きなものを好きなように描くだけでは足りないことがあるっていうのを感じました。
自分はまだまだやりたいことだけを好きなだけやれるところには来ていないと言うか、自分の好きなものを好きに描けるようになるまでには、努力を積み重ねて上に登ってからかなと。

021310_joshua_liner-15

R:結果としては良い反応も受けたけれど課題も見えてきたということで?

H:正直このJoshuaでのショーをやる前はすごく気分も上がるだろうと思っていたし、「これで少しは道が開けるかもしれない」って思ったりもしたんですけど、すごく良い意味で色々と考える機会になったというところですね。
悩むこととか考えることはすごく大切だと思うんですけど、でもやっぱり絵描きになりたきゃ描かないとねって。そろそろ考えるのをやめにしてまた描き始めなくちゃね。
だからJoshuaでのショーをやって、今はすごく自分にとって重要なポイントに立てた感じがしています。

R:ショーのタイトル『From Kojiki To Modern Heroism』の意味を教えて下さい。

H:“Kojiki”は、一緒に展示したTat君の作品が「古事記」の物語を現代的な表現方法やモチーフを使って描いていることからです。彼はすごくきちんと作品の説明もしてくれるし、見る人に古事記の知識があればより深く楽しめる作品だと思います。
で“Modern Heroism”っていうのは、「現代の英雄像」で、僕の思い描く英雄像のことです。
正直自分でもまだこれと言った理由が解らないのですが、10年近く「野球選手」というモチーフを使って絵を描いてきました。バットやユニフォームなんかが小さな頃から好きで、その野球選手を使って少しトンチの効いた現代の英雄像を描いてきたんです。
というのは、毎日生きていて何が強いとか弱いとか、かっこいいとか悪いとか、何が一番っていうのがわからなくなることってあるじゃないですか?絶対的なものが分からなくなるというか。僕はそういう自分の中での変わらない存在を探し求めているのか、それを野球選手というモチーフで表現できないかなと。
僕は絵を描くことで物語を伝えたいって思っているんです。それで自分は「スラッガーが世界を救う」っていうストーリーを描きたくて。僕の絵に出てくる野球選手がスラッガーなんですが。
それって小さい頃の憧れの延長なんですよ、打てるやつはかっこいいっていう。
タイトルの意味はそういうところからですね。

underthemoonlight

R:今回他のショーと比べて何か特別だったことはありましたか?

H:チェルシーっていう地区でショーをやったのは初めてだったので得たものは大きかったです。ギャラリストも作家もコレクターもプロフェッショナルな人たちが集まっている場所なのですごく気合いも入りました。メディアへのアプローチやギャラリーのクライアントとコネクトできたのは僕のキャリアには大きなプラスでした。
そして何より自分の絵がそういう地に踏み入った時にどう見られるかっていうのを初めて実感出来たのがよかったです。中間テストの答案が返ってきた時みたいに。「フムフム」って。
ちょうどそんな感じでしたね、良いとこもそうでないとこも冷静に見えて。

R:あなたはこれまで半々くらいの割合で海外と日本での生活をしてきていて、活動の拠点も今までに東京、パリ、ベルリン、NYと移していますね。
そこでNYを選んだ理由というのはどこにあったのでしょう?

kurata_studio3
(quote : http://arrestedmotion.com/2010/02/studio-visit-hiro-kurata/)

H:パリには3ケ月、ベルリンに6ケ月しかいませんでしたけど、ベルリンとパリは言葉のフラストレーションがありました。パリもベルリンもユーロ圏の中では英語を話す人が多いみたいなんですがやっぱり不便だなと。
僕は親の転勤で7歳から10歳をアメリカのシカゴで過ごしました。そこで英語を覚えたので日本以外だと英語圏が生活しやすい。それが活動のベースをNYにしている大きな理由ですね。
それにNYは大都市ですから世界中の人たちがゴチャゴチャに生活しています。大都市の割に街としての面積が小さいので人種も問わず、金持ちもホームレスもゲイもピンプも同じスペースを共有する事がよくあります。そういういわゆる「人種のるつぼ」の中で日本人として生活し始めると日本で生活していた時期よりも民族のアイデンティティーを意識するようになりました。
ここは日本人にとってはとても生活しやすい環境だと思いますね。特に若い人にとってはチャレンジングで大きなチャンスを掴め得る都市だし、何よりエネルギッシュな街です。
たまにその「人」が作り上げた大きなエネルギーに嫌気がさして、遠くの自然や海に触れたくなる事はありますけどね。

kurata_sailing
(quote : http://arrestedmotion.com/2010/02/studio-visit-hiro-kurata/)

R:では逆に日本を離れた理由というのは?

H:NYの大学を出た直後にビザの関係で一時期実家の東京で生活していました。その時期に駆け出しの作家さんやデザイナーさんなど多くのクリエイターたちと会うことが出来ました。みんなエネルギッシュでNYに居る若い連中と変わらないハングリーさやハチャメチャさなんかを感じました。クリエイティブな事に関わっている人の比率はこっちと変わらない、もしくは多い様にも感じました。ですからその世界で名を挙げるのは並大抵の事じゃないとも感じましたね。
この日本での滞在期間はとても楽しい日々で、才能とアイデアに溢れた仲間に囲まれて自分はとても成長する事ができたと思います。
でもそんな東京生活の中で息苦しさを多少感じた事もありました。どこ行っても自分に似た民族(日本人)が居るからなんだか疲れちゃうみたいな?たぶん自分が変に意識し過ぎてたんでしょうね。
で、ご飯はおいしいし家族も近いけどやっぱり今はNYに戻りたいなって1年ほど東京で生活して感じました。
それでNYに戻って来てから今3年が経ちます。いつまでこの街に居られるかは分らないけど、やる事を終えたら地元の日本に帰りたいと思ってます。
この間、youtubeで大竹伸朗さんが出ていた「情熱大陸」を夜中に見て、なんだか興奮して眠れなくなった事があったんですよ、単純にかっこいいな。って。
夢の生活だけどいつかは日本に帰って南の海沿いのスタジオで制作活動出来たらもう死んでもいいですね。(笑)

R:東京で作品を発表していた頃のものと比べてもかなり絵が変化してきたような印象を受けるのですが、何か自分のスタイルが変化するようなきっかけはあったのでしょうか?

H:さっき話してた絵の修復の仕事場で3年間他の人の作品を直す事に関わってきたんですが、その経験から感じたことは大きいと思います。
スタジオで扱う絵は古くて1800年代後半から大体が1950年前後のアメリカのアブストラクトペインティングなのですが、現代の作家さんの作品を扱う場合も最近は多いです。
搬送の際に破けたペインティングの張り替えだったり、ホコリやニコチンまみれ、水びたしになった絵のクリーニングだったり。薬品を使い絵の表面からその様な物を除いてあげて本来の色を出してあげたり、ヒビ割れや破れた箇所を筆と特殊な画材でリタッチする場合も多いです。
僕は始めて3年なのでまだまだなのですが、修復スタジオでは実践させてもらえるから技術的な事を毎回習得させてもらっています。
こういう経験は自分の作品にも自然と影響が出てると思いますね。

kurata_desk
(quote : http://arrestedmotion.com/2010/02/studio-visit-hiro-kurata/)

それとこの仕事をやってきて最近解った事があって、作品の値段とクォリティについてなんですが、スタジオに送られて来る作品は高価に取引されてる作品も多くて、高いものは1億円以上で売買されてるような作品もあります。
そういう絵を見ていて、やっぱりどの作品が高く取引されていてどれがそうでないとかって全然分らないんですよ。
とても小さな作品を『あれは高価だよ』って誰かに聞いたら「あ、まじだ。でもこっちの大きい方がよくね?」って言うような世界なので予備知識がないと良い意味でも悪い意味でも値段の判断って出来ないんです。だからおもしろいっていうのはあるんですけど。
そんな中で人が直したがる作品っていうのはある一定のクォリティラインを超えているように感じたんです。
美術史にうまく乗るような高価な作品と、高価では無いけれど人が直したがる作品のどちらもに共通する事は、質的な手抜きが一切ない事が多いように思えます。好き嫌いは鑑賞者によってもちろん異なりますが、それを超えた「物」としてのクォリティはやはり高ければ高い方が丁寧に後世に残っていくようです。
それを思った時に質の高さの重要性を改めてというか、思い切り感じましたね。値段の話うんぬんの前に、質の高くない絵を描き続けても仕方ないというか、描く以上はやっぱり本当に良いものを描かないとって。
本当に当たり前のことなんですけど、そういうシンプルな事を感じながら制作する様になりました。

R:そういった変化に伴って昔とは違って最近の絵に込められているものなどはありますか?

H:あまり意識してこれを込めるとかっていうことはしていません。
作品は見た人に自由に感じてもらえるのが一番だと思うので。
でもとにかく制作のフィニッシュラインをこの辺りだっていうふうに決めないで、いけるところまで高い位置に持っていって、絵の質をもっと高めたいですね。スタジオの壁にもpostitで貼ってあるんですが「カテゴライズ出来ないが解りやすく、質の高い作品」って所を目指しています。

P1010186

R:ではあなたの制作におけるテーマはありますか?制作で一番重要視していることなど。

H:まずは自分をちゃんと納得させることですね。これは簡単そうだけどすごく難しいことで。やっぱり自分が描いているからわかるんですよね、「このへん手を抜いたよな」とか。
まずは自分のスタジオを出る前の確認印のラインを上げなくちゃって。
それは自信にもつながるじゃないですか?世界の誰かっていうか、まずは自分一人でも「これやばいじゃん!」って思ってたらもう既に0じゃなくって1じゃん!って。俺の1があったら絶対2も3も続くでしょ?って。
それと、解りやすさっていうのもとても重要だと思います。自分の作品は制作過程で10分も20分も眺めますが、人の作品なんて眺めて数十秒じゃないですか?普通ね。その一瞬で相手の脳に刻み込むにはやっぱり解りやすいインパクトは重要じゃないかな?
ある程度作品に文脈と付加価値が付き、違うインプットの仕方をしたら話は別だけど、僕みたいな駆け出しの作家の作品にはシンプルなインパクトは重要だと思います。

021310_joshua_liner-7

R:ではこれからは今回の経験が反映された制作になりそうですね。

H:そうですね。気楽に気長に、そして着実にやっていけたらと思ってます。
とにかくここからって感じですかね!


やはり今回のショーは彼に変化を与えたポイントとなったようだ。
Hiro Kurataが言うように、アートにおけるプロフェッショナルな地で得た反応というのは、貴重な採点済みの答案用紙になったに違いない。
しかし活動の場所がどこであれ、作家が本来すべきことというのは変わらないはず。
質の高い作品を残すこと。そしてその“質”という一文字に何を含ませるかに作家の真髄が表れる。
自身の思いえがく英雄像をドキドキしながら描くという彼の純粋さ。そして新たな課題を見つけ、それに向かってやりがいを感じている彼は、きっと面白い物語を描いていってくれるはずだ。

follow us on twitter

ranking

ranking

RECOMMEND

http://www.red1press.com


about us

RED ONE PRESS(レッド・ワン・プレス)はストリートカルチャーを軸に、アートに関する様々な情報を提供するポータルサイトです。私たちは国内アートシーンの発展や日本のアーティストを世界に広めるということを目標に掲げ、私たちの注目するアーティストや出来事を価値ある情報として扱い、このサイトを運営します。
それは我々が、誰かにとっては取るに足らない事実であるかもしれないアートの魅力やアーティストの生きる姿勢というものが受け継がれるべきものであり、そこにスポットライトを当てることが必要だと感じているからです。

contact us

info@red1press.com